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田んぼで藻類を育てる!−藻類バイオマスエネルギー実用化プロジェクトの研究支援−

つくば市 国際戦略総合特区推進部 科学技術振興課 係長小川英男さん
筑波大学生命環境エリア支援室係長 鶴田恵介さん

(2013年10月7日にラヂオつくばで放送した内容をもとにした記事です)

 つくば国際戦略総合特区の事業の中でも特に注目度の高い「藻類バイオマスエネルギーの実用化」。藻類が生成するオイルを石油の代替燃料として使おうというこのプロジェクトの最終目標は、「藻類で日本を産油国にすること」である。

 現在、大量培養技術の確立を図り、休耕地を活用した屋外の実証実験設備の建設が進んでいる。農地法では農地を農業以外に利用することは違法であり、その試みは前例がない。国と法律の規制緩和について協議しながら研究開発を推進するというのは特区ならではの取り組みといえよう。

 今回はこの屋外の実証実験施設の建設を軸に、その意義や特区制度の利用という観点から、研究者を陰で支える立場のお二人に取り組み内容について伺った。

インタビューを音声で聞く

Q現在筑波大学で行われている研究は、藻類から採れる油を石油に代わる燃料に利用しようというものです。
このたび、藻類を培養する大規模な屋外実証施設を、大学の近くにある農地に作ったということですよね。
この写真がその設備なんですが、ビニールシートを敷いた田んぼがあり、その隣には温室がありますね。設備について詳しく教えていただけますか?

鶴田さん

これはつくば市栗原地区の水田で、筑波大学が所有者のご理解を得てお借りしたものです。広さは約2000平米。
まずガラス温室内で藻類のタネ株の培養を行います。その株を水田に設置した培養装置(リアクター等)に移して大量培養を行います。そこで得られた藻類をまた温室に持って行き、濃縮・乾燥を行います。
そして大学に待ち帰りオイルにするため抽出・精製を行うことになっています。
今回の実験実証農地では、重油相当の炭化水素オイルを生成する「ボトリオコッカス」という藻類を培養することになっています。

Qなぜこうした実証実験設備を農地に作ったのですか?

鶴田さん

大学内での研究でも、一定規模のスケールで実証実験を行い、成果をあげてきました。しかし今後の実用化に向けてはより大量の培養を行わねばならず、大規模な土地が必要です。そして藻類の培養は大量の水が必要です・そこで水の供給システムが整備されている農地は藻類を培養するには一つの候補として挙げられるわけです。さらにつくば市のみならず国内には農業が行われていない耕作放棄地が多数あるため、それらを利用することも目的の一つです。

Q使われていない農地の有効活用というわけですね。しかし、農地で藻類を育てるのはそう簡単ではないと聞いたのですが、いかがでしょうか?

小川さん

はい、なにしろ藻類を農地で育てようという試みは日本では前例がないことなんです。
農地法では農作物以外のものを農地で作ってはいけないと決められています。
当初、藻類は農作物であるかどうかという明確な位置づけがありませんでした。そこで、藻類を新しい農作物として位置づけることによって農地で栽培できるようにして欲しいと、国に主張してきたんです。
つまり新しく大規模実証施設を作るにあたって「これは農業です」ということを理解していただく。そのためには土地を今までの田んぼの状態からあまりかけ離れた状態にしていけない、ということで。そこを理解していただくというのが難しいところでした。

鶴田さん

ですので、あくまでも農作物と同じようなかたちで培養するという観点で、実証実験を行っているということなんです。

Q特区制度のメリットの一つに「法規制の緩和」ということがありますよね。
その点では今回の取り組みはどのように捉えたらいいのでしょうか?

小川さん

少し専門的な話になりますが、特区制度が始まった頃は藻類を育てることが農業であるという明確な位置づけがなかったんです。
そこで結果的には、今回の屋外実証施設の土地については「農地の一時転用」という手続きをとることとなりました。つまり、農地を一時的に農作物以外のものを作っても良い、という措置をとったということです。しかし農地転用ではしばりも多く、今後より大規模な実証実験を進めていくには不便な点も多くあります。
そこで農地転用しないで、そのままの形で藻類を育てられるようにしたいと考え、国と協議を進めているところです。

Q農地転用しないことで、よりスムーズに藻類の培養が進められるのですね。特区だからそういうことが可能ということですか?

小川さん

そういうことです。

Q研究室側はこの実証実験施設を作るにあたって、どのような要望があったんですか?農地にこだわりのポイントはありますか?

鶴田さん

大学から離れたところで培養するので、管理や運送という点から、大学に近い土地であることが一つです。また、タネ株の培養を行ったり、濃縮や乾燥を行ったりするスペースが必要なので近くにそのような温室があることも条件の一つ。
そして、今回の農地を使った実証実験が国内で初めてのケースなので近隣の方々の同意を得られることも重要なポイントです。

Qこの農地実証実験でどのような成果が期待されますか?

鶴田さん

まず、今回つくば国際戦略総合特区の事業として、ある程度の数値目標を設けています。その中では藻類オイルを用いてつくば市の公用車を運用するといった目標や、炭化水素オイルの生産量の具体的な数値を挙げています。これらの目標に到達できるようなオイルの生産を目指しています。
また予算の問題や所有者の方々の同意を得られるかどうかという問題はありますが、今後実証農地を拡充することも視野に入れています。これに関しては、国との協議の中で、農地でそのまま培養できるということがクリアになればより進むものと思われています。

Q行政としては今後どのような展開を考えていますか?

小川さん

つくば市としては、今後藻類を育てるということが農業に位置づけられることにより、農業者や農業法人が気軽に参入できるようになり、同時に耕作放棄地の解消につなげたいと考えています。そして、近い将来には藻類バイオマスエネルギーの事業が日本の有望な産業に育つことを期待しています。

鶴田さん

つくば市発のモデルということで、まずこの実証農地で実験を進めていきたいと思っています。

(このインタビューの内容は2013年9月末現在のものです)


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