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次世代がん治療(BNCT)の開発実用化 前編

筑波大学准教授 熊田博明さん

(2013年10月21日にラヂオつくばで放送した内容をもとにした記事です)

筑波大学は、1980年代より原子炉を使用した次世代がん治療(Boron Neutron Capture Therapy)の臨床研究に取り組んでいる。
加速器を使用した病院内に設置可能な治療装置、周辺機器や制御システム等を包括的に研究開発している。平成27年度までに実用化を図り、治療パッケージとして国内外への展開を目指す。

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QBNCTというのはいわゆる放射線治療の一つですよね。ほかの放射線治療との違いはなんですか?

熊田先生

最新の技術の陽子線や重粒子装置は外科手術に代わる治療ということで増えています。特に日本の場合は、高齢者社会でオペを受けたくてもできなかったり、癌がオペできない深いところにあると、科手術の代わりに放射線をいれて癌を殺すというのが普通のX線を使う放射線治療です。それでも治りきらない癌があり、BNCTの対象になっているのが脳腫瘍です。脳腫瘍は正常な脳の中に癌細胞が外に染み込んでいて、癌のかたまりの部分は放射線で治療したりオペで取ったりできますが、染み込んでいる癌から再発してしまいます。悪性の脳腫瘍だと約1年以内に90%の人が亡くなってしまうような難治性の癌です。治療で染み込んでいる癌を全部取ってしまうと正常な脳まで殺してしまうので、人間じゃなくなってしまう。そういった普通の放射線治療などでは治せない染み込んでいるような癌に対してBNCTという中性子を使った新しい治療法を提案していきます。今その技術を確立しようとしていることになります。治療の対象が普通の放射線のものとは違って浸潤性の癌とか再発の癌です。一回放射線治療を受けた後にそこから再発してしまうと普通は2回目の放射線かけることができないんです。そういった場合に対してもBNCTは2回目の治療ができるので、再発してしまった患者さんに対する治療法としても研究しています。

Qどういう仕組みでがんが破壊されるんですか?

熊田先生

まず治療の前に癌細胞にだけ選択的に集まるホウ素薬剤を投与します。ホウ素自体は癌細胞に集まる性質は持ってないんです。ドラッグデリバリーシステムというのが、癌細胞に集まる技術で薬学の分野です。癌細胞に集まりやすい薬を作ってそれにホウ素をひっつけておくと、癌細胞にだけ選択的に入っていくという仕組みです。今使われている薬というのはアミノ酸なのですけど、癌細胞というのはアミノ酸の代謝が非常に早くて、糖なのでどんどん糖代謝をしていきます。そうすると、癌細胞は正常な細胞の3倍も5倍もアミノ酸を取り込んでいきます。そのアミノ酸にホウ素をひっつけておくと癌細胞により多くのホウ素が集まり、そこに中性子を外からあてます。今度はホウ素と中性子が核分裂反応を起こすので、それで癌細胞だけをやっつけるということができます。

Qその中性子ビームを照射する加速器を開発しているということでしたね。加速器を使うことの意味合いは何でしょうか?

熊田先生

BNCTは中性子を使う治療で、今まで中性子を発生させるには原子炉を使うしかなかったんです。世界でも数箇所、日本だと東海村と京都大学の2箇所にだけこの治療を研究できる原子炉があります。今まで臨床研究が行われてきて、治療効果があるということがすでに実証はされているんですが、病院に原子炉を作るわけにいかないし、法律の問題もありますし、そもそもお医者さんが使いにくいということがあって、治療として確立しませんでした。それに対して、最新の加速器という技術が確立してきて、加速器を使って中性子を発生させる技術がでてきたんです。加速器は治療に必要な大量の中性子を発生させることができ、しかも原子炉ではできない薬事を通すことができます。病院にも併設できて治療装置として薬事を通せるので、すなわち先進治療として迎えることができることになりました。我々はできるだけ小型で病院にも併設できる医療用装置としてこの中性子を発生させる装置を開発しようと、平成22年度からチームを組んでこのプロジェクトを立ち上げています。

Qどのような装置ですか?

熊田先生

二つのユニットでできているのですが、この二つの装置を通ると陽子が8メガエレクトロンボルトという光の速さの10%弱ぐらいまでスピードが上がる装置です。
この装置自体は1年前に出来上がっています。それを動かして、光の速の10%までもっていくには微妙な調整が必要で時間をかけています。それぞれのパーツごとの調整が終わって、各パーツをつないで一通りで動く装置として作っているところです。

Qこだわりのポイントはありますか?

熊田先生

僕はあまり加速器に詳しくないのですが、これは三菱重工製の加速器です。中がまったく不純物が入っていない純銅でできています。この銅という素材自体を作る技術があるのは日本だけです。白物家電とは違って、これは中国や韓国が真似しようと思っても銅というこの材質を作る技術がないので、ジャパンオリジナルの技術になります。将来的にこの装置が出来上がっても、外国はまねできないのでそれを医療産業として輸出できる装置です。


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