生活支援ロボットの実用化

産業技術総合研究所 知能システム研究部門 
副研究部門長の大場光太郎(おおば・こうたろう)さん

(2013年12月30日にラヂオつくばで放送した内容をもとにした記事です)

今日は研究学園駅の南にある生活支援ロボット安全検証センターに伺っています。ここでは生活支援に関わるロボット、つまり高齢者の方の歩行を助ける移動型のロボットや、車椅子とベットが一体になった介護支援のロボットなどが持ち込まれ、実際に使われる前に問題はないかテストをするための施設です。

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Qここではどういった検証が行われていますか?

大場先生

基本的には4つのタイプの試験を行っています。例えば車輪がついているような物の走行関係の試験、耐久性試験、人にあたった時にどれぐらいの衝撃が加わるか対人関係の試験、電波関係の試験というような試験を行っています。

Q単にこういった検証をされているわけではなくて、こういった検証を行いデータを蓄積して、ロボットに関する安全認証、安全の基準を作る本来の目的の一つであるという風に伺ったんですが、そういった安全基準を作るということがなぜ今求められているのでしょうか?

大場先生

ロボットを作っている企業のメーカーが実際に製品として世の中に出して大丈夫なのかということを気にされているのが第一の原因です。ロボットを作っている企業は中小から大企業になります。特に大企業は別に本業がありますので、本業以外にロボット事業を立ち上げて、万が一ユーザーに怪我をさせてしまった場合、ブランド棄損イメージが起こってしまうということを非常に懸念されているようです。企業がブランド棄損イメージを最大限に抑制するという意味も含めて、国の研究機関のようなところがロボットの安全性を評価して欲しいという話が行ったのがプロジェクトのきっかけです。

今安全検証センターはロボット事業に新規参入している企業の駆け込み寺のようになっていて、コンサルティングのようなこともしています。どういうリスクが想定されるのかリストアップするために、まずロボットの機能を明確にします。どういう環境で使われ、どういう使い方をされるのかお聞きします。「何でもできるロボットを作ったんだけど、ここに持ってくれば安全になると聞いたんだけど。」って持ってこられる方がいらっしゃいますが、何でもできるロボットのリスクアセスメントは不可能です。「テロにも使えるんですか?」と聞くと、「そんなことはない。」と言われます。そのロボットがどういうものに使われ、何を行うのか、という重要なところを洗い出すお手伝いをします。

Qロボットの安全認証を作るといった点で家電や自動車とロボットの違いというのはどういった点がありますか?

大場先生

世界的にみてロボットの定義はまだありません。例えば、家電で掃除機のルンバですが、あれをロボットと呼ぶかはメーカーさんの判断です。“ロボット”と呼ばれているもので、どういった物が安全検証センターに持ち込まれるかというのは想定が非常に難しいところです。家電や車の安全性を評価と違ってロボットの安全性を評価するというのは、どういった物が持ち込まれるのか分からない物に対しての安全性を評価せざるを得なくなりますので、非常に難しい議論になるというのが今のこのセンターの問題です。

Qしかし世の中に出す前の最低限のリスク管理をしていこうという取り組みであるということですね。ロボットを使う側の一般のユーザーとしてどういった意識を持つべきですか?

大場先生

欧米の人の感覚と日本の人の感覚というのは実はそこがすごく差があります。ユーザーも“完全安全はない”、ということを理解して、リスクを背負った物とどううまく付き合うかということを考えなくてはいけないのかなと思います。ロボットも、万が一使い方を間違ってしまうと怪我をするようなこともあります。ユーザーが日常的にロボットが出始めたときには、ユーザーもそこを理解したうえて使っていただくということをしないと、ロボットは普及していかないと思います。

Q自動車が世にでてきたよりも、ハードルが高いように思います。

大場先生

とても高くなっています。例えば自動車が今発明されて出てきたら、リスクアセスメントだけで破綻して世の中に出てこないと思います。自動車が成功した例としては、長い時間をかけて社会システムができて、法制度や信号ができて、ユーザーの中でも自動車の利便性だけでなくリスクを意識した上で成り立っています。ロボットもメリットもありますが、残念ながらデメリットもあります。デメリットも意識した上で使っていただかないと、“ロボットは危ないんだね”という話になって、ロボットを待ち望んでいる方々がいたとしても世の中に受け入れられなくなってしまいます。メリットもデメリットもユーザーが意識しながら使えるように社会システムを作っていかないといけないと考えています。

Q技術を使えば良くなるのではないかと素人的に思いがちですけどそうではないということですね?

大場先生

すごい技術を使えば値段も上がります。ご相談いただくときにお話しするのは、なるべくシンプルな形で、できるだけ複雑な構成で作らないように基本的に安全になるようにするにはどうしたらいいかとアドバイスさせていただいています。
当然お金が跳ね上がってしまうと売れなくなりますので、そうやってしまうと作られる方のマイナスになってしまいます。

Qロボットの開発、さらにそのロボットの安全検証の取り組みが生活の中にロボットが入り込んでくるという社会が出来上がってくると思うんですけど、ロボットと共存する社会というのはどういったものを思い描いていますか?

大場先生

ロボットと共存する社会はすでに存在していると思います。これは私の持論ですが、ロボットという言葉はある意味桃源郷のようなもので、開発時はロボットと言っていても、できたものは何かの専用システムであったり、環境の中に埋め込まれてユーザーが意識しなくなってしまっているのかもしれません。例えば、昔は“ロボット”といって皆が思い描いたのは、音声で会話してそれに対して応えてくれるようなもの。実はIphoneのSiriで実現されていて、ロボットとは呼ばないですけど携帯電話になっているかもしれない。Siriのようにロボット機能というのは、着実にあちこちに埋め込まれ始めていて、ユーザーが気がつかない間に確実にロボット技術は生活に入ってきてる気がします。それがビジネスになるものが多いかもしれないですね。

まとめ:ロボットというといわゆる人型ロボットとかをイメージしてしまうんですけど、実際先ほどおっしゃった携帯の中の一つのツールですとか、すでに組み込まれているということで、改めてロボットって身の回りにあるんだなということを実感しました。


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